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僕が子供の頃に両親は死んだ。原因は確か旅行先での事故だったと思う。だったと思うのは、もう、よく覚えていないからだ。その時の僕が泣いたのかすらも思い出せない。ただ、小夜子はその頃から小夜子だった。

「お兄様、あたしと子供を作りましょう」

小夜子が耳元で呟いた。お酒を飲んでいるせいか頬が紅潮していたが、大して言動は変わらない。

「あたし、もう子供じゃないのよ」

華奢な腕を僕の上半身に絡めてきた。小夜子のまっ平らな胸から、背中越しに心臓の鼓動が伝わってくる。どうやら少しは興奮しているようだ。もしここでいいよと言ったらどうなるだろうか。

「小夜子はまだ子供だよ」

結局はいつも通りやんわり断った。僕にはそんな度胸も児戯心も無い。

「どこが?あたしは子づくりの手順は知ってるわよ」

けど小夜子は食い下がってきた。やはり酔っているのかな。さて、どうしたものか。なるべく怒らせないように納得させなくてはならない。小夜子の人差し指を軽くつまみ、少しだけ考える。綺麗に切りそろえられた爪先が、蝶の幼虫のように小刻みに動いている。

「子供ができたらどうするの?」

「育てるわ。あたしとお兄様の子供だからきっといい子よ」

「どうやって育てるの?」

「愛をもって育てるわ」

「愛だけじゃあ育てられないよ」

「そんなのわからないわ」

小夜子が少し鼻白んだ。よし、ここだな。

「だから子供なんだよ」

「なんで?」

「わからないことだけで物事を進めようとするのが大人とは言えないよ」

「わからなくていいじゃない」

「わかることだけわかって、それで大人になったと思っている時点でまだ子供だよ」

我ながらめちゃくちゃな理論だが、小夜子は納得したらしい。抱きしめる力を強めて、うるんだ瞳でこちらを見てくる。

「やっぱりお兄様は賢いわ」

小夜子は眼を細めて囁くように言った。吐息から甘い香りにお酒の匂いが混じって、少しむせてしまう。

「さあ、もう寝よう」

僕は巻きついていた小夜子の腕を丁寧に振りほどき、自分の部屋へと戻った。小夜子、僕はあの時のことは覚えていないけど、君の表情だけは覚えているよ。

なんで嬉しそうに笑ってたんだい?

いつか小夜子が本当に小夜子になった時に聞いてみよう。僕は電気を消して眼を閉じた。
2010.05.15 Sat l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top

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